『カルメン』


何と言えばいいのか、ものすごく言葉を選んでしまう。
ステラ・アラウソもアドリアンガリアも、ほかのメンバーもみんなガデスの遺志を継いでがんばって舞台を作り上げている、それは痛いほどわかる。
特にアラウソのカルメンからはカルメン以上のもの、舞台を成功させなければいけないという責任感が感じられて、カルメン登場のシーンでは胸にこみ上げるものがあった。
けれど。


でも、今日のカルメンは別物のカルメンだった。


同じ演出、振り付け、照明、音楽だけれど、踊る人が違うとこうも違うのか。舞台に息を吹き込むのは「ダンサー、その人」なのだ。


カルメンを見るたび、私の胸はいつもざわざわした。
カルメンやホセに気持ちが向かってざわざわしていた。
ハバネラでは息を呑んでどきどきしていた。
でも、今日はどきどき、ざわざわがなかった。


エスカミーリョが若い。
鏡の前で衣装を身に着ける場面がある。
これまでは闘牛場に向かう前の厳かな儀式のように感じていた。
それが今日はまるで準備体操のように見えた。


エスカミーリョだけではない。
カルメン、舞台そのものが若いと感じた。


カルメンだけど、別物のカルメン、若いカルメン
そう思う。


アンコールも同じでうれしかったなあ。
大好きなアンコールだもの。
みんなが舞台中央に集まるシーン。
あそこが一番好きだ。
もう一度「アンダルシアの嵐」が見たい、と切に思った。